STARLIGHT MAP(土)
溺愛
『この間はシンガポールへ、先週はニューヨークへ。娘はとても忙しいのよ』
おばは自慢とも不安ともとれない愚痴を私によくしてくれた。愛されている彼女がうらやましいとは思わなかった。私にはJerusalem’Sがいたからだ。
海外旅行は私が嫌がるからふたりで行ったことはない。高層マンションも高級住宅街も窮屈だから築50年以上の借家に住んでいる。「地面に足がついてないと椿はすぐに機嫌が悪くなる」と庭いじりをいっしょに楽しんでくれる。
私は幸せだと思っている。自分の人生が祝福されたものだと思っている。ダイヤモンドも高級外車も高級ホテルも高級レストランも、およそ金で解決できるもので私は満たされていない。でも、彼らからは元手0円の歌をプレゼントされている、しかも毎晩。セックスを断れば気をひくために素敵な子守唄を元手0円で歌って聞かせてくれる。
心地よい歌声はお金では解決できない。優しい眼差しはJerusalem'Sの賜物だ。
『そういえば、この間は高級ホテルのラウンジでパーティだったみたい』
虚しい響きに気づいているおばやいとこ、そのお友達は必死になって金額を羅列する。写真をパシャパシャと撮ってはアルバムにして私にわざわざ贈ってくれる。
おだやかに努めて笑いを堪えて「ありがとう」と伝える。
私は申し訳ない思いを恥ずかしさと一緒に彼女たちに向けている。そして、優越感などではなく同情から「幸せだ」と言いたいところをぐっと飲み込む。私は特段、彼女たちを私は傷つけたいわけではないから。
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